漁業補償を受ける者は誰か
1漁業補償とは何か
・財産権(生活に密着した経済的利益を得る権利)の侵害は違法。(憲法29条)
・埋め立てにより生活が脅かされるような場合は「財産権の侵害」にあたる。
・「財産権の侵害」は違法であるから、財産権の侵害する事業を行うには、予め財産権の権利者から同意を得ること、また補償を支払うことが必要。
・公有水面埋立法では、埋立の手続きを次のように規定している。
埋め立て免許出願⇒水面権者(漁業権者等)の同意⇒埋立免許⇒水面権者への補償⇒着工
・漁業権は財産権であり、漁業権を侵害するには漁業補償が必要。
2漁業の種類
漁業は一般的には、自由漁業・許可漁業・漁業権漁業(共同漁業、定置漁業、区画漁業)の3種のいずれかに分類される。
・共同漁業(自由漁業)〜一定の水面を共同に利用して営む漁業。
・定置漁業(許可漁業)
・区画漁業(許可漁業)
3共同漁業権とは何か
(1)共同漁業権は関係漁民集団の総有の権利である。
・免許は漁協が受けるが一定の資格を満たす漁民が営む、という特殊な権利。
・社員権説と総有説とが論争を続けてきた。
社員権説〜権利者は漁協(法人)組合員は社員権に基づき共同漁業を営む。
総有説〜権利者は入会集団(関係地区漁民集団)。総有とは、集団が持つと同時に構成員(関係漁民)も権利を持つような共同所有。
・正しいのは総有説
権利とは「一定の利益を自己のために主張することができる法律上保障されている力」共同漁業権とは「共同漁業を営む権利」
(2)漁業法の哲学〜総有を近代法(ローマ法)で規定した。
・明治漁業法の下では、入会集団=組合員集団
・現行漁業法の下では、協同組合原則を持つ漁協に免許することにしたために、入会集団(関係漁民集団)と組合員集団が乖離する可能性。そのため昭和37年漁業法改正により漁業権行使規則を通じて関係漁民のみが共同漁業を営めるとし、入会関係を保障した。
(3)「共同漁業権=総有の権利」を理解するキーワードは「関係地区」
共同漁業権には必ず関係地区(自然的および社会的条件により当該漁業の漁場が属すると認められる地区)が定められる。
・漁業法8条1項(昭和37年改正)〜組合員であって漁業権行使規則に定める資格に該当する者は共同漁業を営む権利を持つ。
・漁業法8条3項・5項(昭和37年改正)〜漁業権行使規則の制定・変更・廃止には関係地区漁民集団の書面同意が必要。
・漁業法31条(平成13年改正)〜共同漁業権の変更・放棄には関係地区漁民集団の書面同意が必要。
(4)社員権説では漁業法を説明できない
・なぜ組合員のうち関係組合員だけが営めるのか
・なぜ員外者の関係漁民が営めるのか
・なぜ漁業権行使規則を関係地区漁民集団が決められるのか
・なぜ共同漁業権の変更・廃止に関係地区漁民集団の同意が必要なのか。
4慣習上の漁業権とは何か
(1)人々の営みが権利を創る
(2)許可漁業・自由漁業が「慣習上の権利」になる
『公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の解説』に明記されている。
(3)慣習上の漁業権の事例
オバアたちの権利(石垣島白保)、磯草の権利(大分県佐伯市大入島)、松江市片句の「のり島の権利」
5埋立・ダムと漁業権者の同意
(1)公有水面埋立法の手続き
漁業権者の埋立同意⇒埋立免許⇒漁業権者への補償⇒着工
(2)漁業権者の同意は総会決議では得られない
総会決議は漁協という法人の意思決定方式。共同漁業権は関係漁民集団の権利だから、その侵害に関して漁協の意思決定方式(総会決議)では決められない。漁協の総会決議は昭和45年以降のこと。ダムでは川辺川ダムが初めて。
(3)許可漁業者・自由漁業者への補償なしに埋立はできない
諫早湾、 上関原発
・許可漁業・自由漁業への補償は、本来、個々の権利者(漁民)に対し支払わなければならないが、共同漁業権を利用して漁協に一括して支払われることが多い。
・漁協が補償金を受領・配分するには、関係する組合員から委任状をとっておくように」との水産庁通達あり。最終的には補償金の配分受領により全員の同意をとってきた。
(4)共同漁業権の侵害に関する補償金は総有の財産
共同漁業の侵害に関する補償金は入会集団(関係漁民集団)の総有の財産。したがって、その受領・配分は、漁協の意思決定方式(総会決議)では決められず、関係漁民全員の同意が必要。