安岡沖洋上風力発電建設に反対する会HPより 転載 http://yasuoka-wind.jimdo.com/
風力発電は人間の健康に害を与える可能性がある
原著: Wind Turbines can be Hazardous to Human Health
著者:Alec N. Salt, Ph. D., Cochlear Fluids Research Laboratory, Washington University in St. Louis.
邦訳:医療法人 りゅう呼吸器科内科医院長
巨大な風力発電は、風車を稼働させる風が渦をまいている時には、非常に低い周波音と、超低周波不可聴音(20ヘルツ以下)を発生させる。超低周波音の量は、多くの要因による。例えば、風力発電装置のメーカー、風の速度、出力、地形、近くの風力発電の存在(一つの風車から出た乱気流が別のもののブレードに巻き込まれるときには増大する)などである。
超低周波音は聴取不可能で、耳にする音の大きさとは関係が無い。超低周波音はそれを検出できる音声レベル測定器でしか測定できない。ビデオカメラや、他の録音機器などは超低周波を感知せず、その音を再生することもない。
風車によって生じるレベルの超低周波音は聞こえないが、耳は、確実にそれを感知し反応する。図は、超低周波音が耳に発生させる巨大な電位差を示す。その電位は(この場合、18.7mV pk/pk 振幅)耳に聞こえる普通の周波数帯の約4倍の振幅を持っている。これらの測定結果は、耳の低周波領域が超低周波音に対して非常に敏感であることを示している。
我々の測定結果は、耳というものは、他の聞こえる音が低レベルであるか、または聞こえないレベルである時に、超低周波音には非常に敏感であることを示している。したがって家や枕もおそらくこの問題に関わっている。わかりやすくいうと、超低周波音による耳への最大の刺激は、家の中にいても生じることになる。なぜならば風車の耳に聞こえる音は家の壁で遮断されるが、超低周波音はいかなる小さなすき間も簡単に通り抜けてしまうからである。
同様に、片方の耳を枕につけることによって耳に聞こえる音は遮断できても、超低周波音は遮断できない。いずれの場合においても、超低周波音は、その音が聞こえなくとも耳を強く刺激することになる。60dB SPL以上のレベルで150―1500ヘルツの範囲の高周波音の存在は、超低周波音の耳への反応を抑制する。超低周波音の影響を他の騒音で紛らわすことは可能であろうが、その騒音の周波特性が考慮されなければならない。1500ヘルツ以上の周波数は何の役にも立たないであろう。
耳が超低周波で刺激されることはわかっているが、それが聞こえないのになぜ問題になるのであろうか。たとえ耳に聞こえなくとも、超低周波音が悪影響を及ぼすいくつかの形があるのだ。
1.聞こえる音の振幅や振動に変化を来す。
超低周波音は耳の感覚細胞の感受性を変化させることによって、感覚細胞に悪影響を与えることが知られている(たとえば、ステレオの音量を繰り返し上げたり下げたりするように)。これこそが音声レベル測定機を用いて測定できない、生理的振幅変調の一つのあり方なのである。聞こえる音の振幅の変化を音量測定器で測定している人は、完全に違うものを見ていることになる。生理的な振幅の変化は、数デシベルの変化ではなく、ボリュームをゼロから最大にまわすくらいの変化を伴う、より強力なものになりうるのである。したがって、超低周波音が誘発するコンポーネントを考慮しないで振幅の変化を研究しても、おそらく問題の本質に関する説明にはならないであろう。
症状:動悸、イライラ不快感、ストレス
2.“意識下”の経路を刺激する。
耳の多くの神経の活動が“聞く”ということにつながるものではないということがわかっている。内耳の卵形囊や半器官のから出ている神経が刺激を受けると、眼振や頚の筋肉の緊張となるかもしれないがそれが音として聞こえはしない。明らかに聞こえる音の聴覚経路はかなり解明されている。それは、蝸牛の内毛細胞から始まり、一型聴覚神経束を通り、脳内の蝸牛核の紡錘細胞に達する。この経路はよく研究されてきている。耳の外毛細胞(超低周波音に敏感)は、この意識に関わる経路とは繋がっていない。これらは、二型の神経束(全神経の約5%)に繋がり、脳の顆粒細胞から車輪細胞を通って、脳の他の経路に達する。車輪細胞は聴覚を抑制することで知られている。そのことから、なぜその刺激が聞こえないのかを説明できるかもしれない。顆粒細胞は、注意や警戒に関する経路と繋がっていることが知られている。この経路の刺激が人の眼を覚まさせると考えるのはまちがいないであろうが、実際に眼を覚まさせた原因となるものは聞こえさえしないであろう。
症状:不眠、パニック、高血圧を引き起こす慢性睡眠障害、記憶障害その他諸々
3.内リンパ水腫を引き起こす
内リンパは、液体が満たされた耳の部屋で、風船のように繊細な膜で被われている。メニエル病のような状況下では、この場所の腫大が起きる。この患者たちは、繰り返すめまい発作、低周波領域の聴覚障害、耳鳴、耳の閉塞感におそわれる。低周波音は、障害となったり聴力に影響を与えたりしないレベルであっても、内リンパ水腫を引き起こすことが知られている。これはすぐに生じるが回復も早いため、些細なこととされている。この影響は、50ヘルツ程度では立証されてきているが、それより低い周波や超低周波音ではまだ研究されていない。超低周波音に対する内リンパ水腫の反応が、聴取可能な音に対する反応よりもより大きいことがわかっているので、より周波の低い音が水腫を引き起こすことはないということはありえない。水腫が大きくなると、内リンパは動き、風船即ち球形囊の弱い部分を拡張させる。球形囊は体の平衡感覚の受容体で、それが障害を受けると、バランスが取れなくなり、めまい(空間識失調)や吐き気を催す。特に片方の耳(先に述べたようにおそらくは枕に付けている方の耳)だけが影響を受けた場合そうなる。これまでの研究は、短時間の曝露下の研究であった。影響は、音声に対する長期間にわたる曝露下で増大するようである。さらに、蝸牛の螺旋部分が閉塞されるまで内リンパ水腫が増加すると、このために耳は低周波音に約20デシベルより敏感になり、疑いも無く問題を悪化させることになる。
症状:不安定、平衡障害、めまい、吐き気、船酔い感覚、耳鳴、耳閉感。
4.おそらくは騒音から生じる聴覚障害を悪化させる。
動物たちは、低周波音が伴っていようがいまいが、有害な騒音にさらされてきた。非常に低い低周波音が存在すると、動物たちは、よりひどい聴力の損失とより広範な毛細胞の消失を経験することになった。したがって、何か騒音を伴うことをする時(例えばチェンソーを使った芝刈)、もし低周波音や超低周波音のレベルが高ければ、耳への悪影響はより大きくなりうるであろう。それゆえ、超低周波音(やはり耳には聞こえない)の発生する音源の近くで騒音に晒される時間を過ごす時には、耳の保護器具を用いることが重要である。付け加えると、耳の保護器具、特に耳を覆うタイプは、聞こえる有害な音は減少させはするが、超低周波音からは守ることはない。
以上述べたメカニズムのいずれもが、これまでに発表されたデータに基づいており、その現象が実際に存在し、したがってそれを科学的に実証可能なプロセスにできることを示している。これら4つのメカニズムのうちどれもが起こりえないということを示した人は未だにいない。
しかしながら、人体において、それぞれの現象が、風車から出る超低周波音に長期にさらされることによってどの程度生じるかは、まだ立証されていない。しかし、いずれもが、今や、さらなる詳しい研究を必要としている。それらが人間に起こしうる潜在的な症状はかなりなじみのあるものであるけれども。
風力発電産業は、風力発電が人間の健康に悪影響を及ぼす可能性があるという主張を一般的に軽視している。例えば、Scott Smith 、CanWEA (カナダ風力発電協会) の政策副会長は、Chatham-Kent Tribunal(20011年春)の裁定のレポートに言及して、次のように述べた。「風力発電と健康被害との間には直接的な関係は無いとはっきりと指摘した専門的、科学的で医学的な情報と合致しているので、風力発電産業は裁定委員会の決定を歓迎している。」
この軽視発言は、Chatham-Kent裁定の結論の真意が理解できていない。特に、「風車が人間に有害かどうかの一点に議論を単純化するべきではないということをこの事例はみごとに示した。裁定委員会に提出された証拠は、風車が居住者にあまりにも近くに建設された場合、健康被害が起こることを立証している。この論争は、今や程度に関する議論に発展してきた。」という点においてである。
風力発電の騒音が人間に及ぼす影響は多くの部分が研究されておらず、さらなる研究が必要であることには賛同する。いくつかの大きな風力発電によって発生する超低周波音のレベルがその環境では尋常ではないこと、さらには人間や他の動物たちへの超低周波音の長期の曝露にたいする組織的な長期にわたる研究がされていないことも確かである。
風力発電産業は、超低周波音が聞こえなければ悪影響を及ぼさないという立場を取り続けてきた。これまでの文章を読んでお解りの通り、我々は、耳というものがどのように働くかに関する理解にもとづいて、彼らの立場に強く反対する。これらのウェブページで、われわれの専門領域のいくつかについて、より詳細に考察を加える。