(管理人より)
本日は、竹についての専門家の論考を抜粋転載させていただきます。最近、竹林に対して「竹害」という言葉まで使われているのは常々おかしいと思っていたので、こちらの論考を読んで謎が解けました。
わかりやすいので、ぜひブログ読者のみなさんも以下を読んでみてください。
渡邊政俊氏(1953~1993年 竹の生態、竹林栽培を研究(農学博士))のHPより
竹林の拡大、それは竹が悪いのではありません!
2001年5月21日、NHK「クローズアップ現代」で竹林の拡大問題を放映しました。それを視聴した私は、怒り心頭に発しました。その内容は、完全に「竹を悪者扱い」にしたものだったからです。
また、古くは1998年9月4日、朝日新聞夕刊でも「風流 とんでもない」「竹林異常増殖」の大見出しで、やっぱり竹を悪者扱いにした報道をしました。
最近、地方新聞の京都新聞では「竹だけしく侵入」「生態系への影響懸念」と題して、とんでもない騒ぎ方をしました。
竹林の拡大は、残念ですが事実です。しかし、その原因の捉え方に問題があります。ここに、トピックスとして取り上げ、反論します。
竹林が荒れている理由
今、日本の各地に荒れ放題の竹林がどんどん増えています。とても悲しい限りです。
そのほとんどは、もともと生活力が強いモウソウチクの竹林で、正確なデータはありませんが、 日本のモウソウチク林の大半を占めるのではないかと思います。
竹林が荒れて来た理由として;
☆建築様式が変化し、土壁が減り、竹材の需要が減少したこと。
☆人々の生活様式が欧風化し、竹製品の利用が減少したこと。
☆プラスチック製品など、竹製品の代替品が出現したこと。
☆たけのこや竹製品が安価で大量に輸入されること。
☆竹生産者の高齢化が進み、後継者不足になったこと。
☆このため、竹生産者が栽培意欲を失ったこと。
などが挙げられます。
昭和50年代までの日本には、立派に栽培管理された素晴らしい竹林が存在していたのに、 今ではそのような竹林は本当に稀になりました。
見事に栽培管理されているモウソウチク林(左)とマダケ林(右)
竹林の放任と竹林の拡大との関係は?
報道機関では、「竹林が放置され、荒れ放題だから、竹林が暴れて里山や造林地へ侵出するんだ!」というが、それホント?
結論からいえば、「それは、もっともらしいウソ」と主張しなければなりません。
では、その理由を述べましょう。
今から40年前、世界的な植物生態学者の沼田 眞博士と世界的に Dr. Bamboo といわれた上田弘一郎博士は、 京都市洛西で長年放置されてきたマダケとハチクの混生竹林で7年間にわたって研究された論文が京都大学から発表されました。
当時、私はほんの若輩者でしたが、その研究にお手伝いをさせていただいた経験があり、 その研究の結論には深い関心を持っています。では、その結果をご紹介しましょう。
研究された竹林の林相
調査では「100㎡」の調査区が3個設定され、それぞれの調査区で竹林がどのように推移するかを7年間にわたり、竹だけでなく、 他の植物、動物、気象条件など、総合的な生態的変化が調査されました。
その中から「毎年発生する新竹」と「毎年発生する枯死竹」について、エキスだけ紹介します。
7年間の平均でみると;
毎年発生した新竹の平均本数 14.4本
毎年死んでいった枯竹本数 16.9本
すなわち両者の比率 117.4%
でした。つまり、枯死発生率は若干高いものの、総じて、この竹林では「生まれる竹と死んでいく竹はほぼ同じで、生態的に安定した状態で推移している」ことが確認されたことになります。
この調査はかなり急傾斜地で、地形的に特徴があることから、この状態を地形的極相と述べておられます。
極相とは、「植物群落の遷移の最終段階では群落と環境との間に一種の動的平衡状態が成立し、群落は安定して構造や組成が変化しないようになる」状態を言います。
したがって、調査された放任竹林では、一種の動的平衡状態が見られることから、「地形的極相」と名付けられたものです。
すなわち、NHK「クローズアップ現代」で、「竹林が長年にわたって放置されると、竹林内が栄養不足状態になり、地下茎が外へ広がる」と説明した人がありましたが、それは違います。
竹林は竹林内でちゃんと安定した栄養関係が成立しますし、第一、植物にはそうこうしようという意志は働きません。 植物は環境に適応してのみ生活できるのですから、竹が人間のように、おいしいものを目掛けて突進するかのような話は成り立ちません。
もう一度、竹林の放置と竹林の拡大は無関係です。
では、なぜ竹林が拡大している?
報道では、たけのこ栽培がダメになったため、竹林が放置されたとか、 竹材が売れなくなったのでとか、その原因を「竹」に結び付けるものばかりです。 確かに竹林の多くは荒れ放題ですから、結果としてそのような話になるのは分かります。
しかし、前ページでも書きましたように、竹林の放置と拡大は生態的に無関係ですから、 そのような原因を挙げるのは間違いです。
では、本当の原因は何なのか? 結論は簡単です・・・「竹が入ってきたら困る側の責任」なんです。
現在、「竹が入って来て、ひどい目にあっている」山は、「里山」や「造林地」です。
しかし、かつての里山は人々の生活に欠かせない「焚き物」を供給する大切な山(薪炭林)でした。
ですから、里山の持ち主と焚き物を頂く人との間には立派な「契約関係」が成立していて、 焚き物を頂く人は必死で里山を守ってきました。
邪魔になる「竹」など里山に侵入して来たなら、直ちに切り取っていたことでしょう。
ところが、現在はどうでしょうか。今頃、焚き物を燃やして煮炊きしたり、お風呂を沸かしている人はそれこそ稀でしょう。
つまり、里山と人々の生活との関係は完全に崩壊しているのです。ですから、誰もその気になって里山を守ろうとしていないのではないでしょうか。
だから、竹が侵入すると容易に拡大してしまうのです。
一方、造林地はどうでしょうか。
現在の造林地も、有名な林業地ならともかく、一般には下刈り、間伐、枝打ちなど、 本来林業としてやらなければならないことがなされていないものばかりです。
もちろん、竹が入っていっても、誰もそれを切ろうとはしません。したがって、里山や造林地への竹林の拡大は「竹に何の責任もない」のです。
もう一度、竹林の拡大は、入られては困る側の責任です。
竹林の拡大防止策
竹林の拡大を止めるのは大変! と言われていますが・・・ そんなことはありません! 簡単とは申しませんが、要領の問題です。
ここに、その例を模式図で示しましょう。
左の図は、地下茎が竹林から造林地へ伸び、すでに造林地内に新竹(赤○)が発生した例です。 地下茎は1年に5mも伸び、しかも2年生以上の地下茎からでないと新竹を生みませんから、 その先端は造林地に10m以上も伸びていると考えるべきです。
さらに、地下茎は毎年1本だけ出るのではなく、2本以上出ることがありますので、 その延長は大変な長さになります。
右の図は、左の図にある造林地に入った新竹(赤○)を切り取った場合を示します。
つまり、造林地内に出た新竹を切り取ると、地下茎の伸張は止まってしまいます。 それは、同化作用で養分を作り出す母竹(黄色○)からの距離が遠くなるため、 地下茎を伸ばす力が減退するからです。
要するに、造林地や入っては困るところに発生した竹を切り取ることで拡大が防げることになります。
その場合、重要なことは、タケノコの時に切り取ることです。タケノコが発生する期間はほんの2ヶ月以内です。 この間だけ見回り、タケノコを見付け次第、足で蹴っぱなすか、カマでちょんと切るだけで事が済みます。 私はこれを「タケノコの蹴っ飛ばし法」と称しています。
このような処置を毎年繰り返すと、そのうちにタケノコが発生しなくなります。 その良い例を庭園などで見ることができます。
左の写真は京都嵯峨・大覚寺のマダケ林で、林内には幅5mほどの立派な遊歩道がありますが、 その遊歩道には竹は生えていません。もちろん、竹林と遊歩道の間には何にも埋めてありません。
それは、もし遊歩道にタケノコが出てきたら、足でけっ飛ばしているからです。たったそれだけのことで 遊歩道には竹が出ないのです。
ちょっとした注意だけで、竹の拡大が防げる訳です。
ところで、皆さん、料亭などに植えてあるモウソウチクがはびこって、 ついに料亭が竹薮に埋もれ、営業できなくなったという話は聞いたことがないでしょう。
それは、タケノコが期待しない所に生えて来たなら、直ちにけっ飛ばしているからです。
要するに、期待しない所に出たタケノコを取るだけで、拡大が防げるのです。