ちょうど川内原発が再稼働されようとしているタイミングで御嶽山が爆発し、その映像を見ながらあらためて震え上がりました。私はツイッターではずっと被害の様子を伝えていましたが、やはりいくつかの考察を加えて連載でブログにもあげておこうと思います。
まず御嶽山噴火の映像(登山者による)
私はすぐに「火砕流だ!」と思いました。雲仙普賢岳のことをすぐに思い出したからです。今回の被害の報道、東京新聞から生々しい登山者の声を抜粋転載します。
突然噴煙 熱風襲う 子ども「友達埋まった」 東京新聞 2014年9月28日 朝刊 抜粋二十七日午前十一時五十三分。噴火が起きた頂上付近。山小屋近くにいた愛知県豊田市の会社員山本道雄さん(54)は、熱風と硫黄臭で呼吸ができないほどに。避難した山小屋の屋根に石が大量に降り、何個かは屋根を突き破って床も貫通。「小屋の外に二人が倒れているのを見た。灰をかぶっていて顔が見えなかったが…」と声を落とした。
頂上の剣ケ峰に続く尾根「八丁ダルミ」で、長野県松本市のアルバイト垣外富士男さん(63)は百メートルほど先に白い煙が二つ、むくむくと噴き上がるのを見た。煙ですぐに周辺が闇に包まれ、こぶしから畳ほどの大きさの石が降ってきた。噴煙が押し寄せる側とは反対の斜面に逃れようとしたとき、今度は、猛烈な熱風が襲ってきた。
火山灰で鼻や口、耳が詰まり、熱さも加わって息ができない。「死ぬかと思った。助かったのは奇跡」。気が付くと全身は灰で真っ白。足元には五十センチほどの灰が積もっていた。やっとの思いで登山道を下る途中、尾根に家族連れや若い女性ら百人ほどがいたのが分かった。「『助けてくれ』という声も聞こえたが、周りが見えなくてどうしようもなかった」
御嶽山は水蒸気噴火 予知連見解 マグマ成分検出されず 朝日新聞 2014年9月29日00時51分 抜粋
■低温の火砕流発生、噴煙7000m
噴煙の高さは7千メートルと推定された。噴火時の映像で確認された流れ下る噴煙は、火山噴出物と火山ガスが一体となって広がる火砕流と判断したが、雲仙・普賢岳で発生したような高温の火砕流ではなく、低温だった。火砕流は南西方向に3キロ以上流下していた。
28日、本社ヘリで御嶽山の上空を観察した宇井忠英・北海道大名誉教授(火山地質学)によると、火砕流が流れた場所にある樹木の葉の色合いが変色せずに残り、焦げたような痕跡はなかった。「火砕流は、100度以下の比較的低温なものだっただろう。マグマ噴火なら黒い噴煙が高く上がり、高温の火砕流が発生する」と話しており、噴火が水蒸気噴火だった証拠のひとつとみる。
火山灰は、心肺停止状態の31人が発見された頂上付近と山の南側にある地獄谷に厚く積もっていたが、山全体をみると限られた場所だった。マグマ噴火で噴煙が高温だったら、人的な被害がさらに拡大した恐れがある。
29日になって「低音の火砕流」ということで報道が統一されている感じです。火山噴火時の「火砕流」という発表は、原発で言うところの「メルトダウン」や「核爆発」的な扱いなのかもしれないとすら思いました。
山小屋に避難した登山者が「熱風」と証言し、山頂には亡くなった方が大勢いるという事実。
国交省カメラが斜面流れる噴煙捉える
雲仙とは違うと言われていますが、大量の死者が出たこと(雲仙普賢岳噴火時は43名の死者)は共通しています。比較のためにあげておきます。
雲仙普賢岳火砕流の発生状況(平成3年)
実はこの夏、八丁原地熱発電所と雲仙に行ってきました。九州は活火山が圧倒的に多いので、湯けむりの温泉も多いわけです。
今回私は、雲仙地獄や地熱発電所のすぐ近くの小松地獄を見て回りました。
熱い蒸気が吹き出し、強い硫黄の匂いに包まれて私は正直、その自然の地下のエネルギーの大きさに危険と恐怖を感じていました。火山列島に住んでいることを実感しました。画像は小松地獄。ここは人が少なかったです。近くに発電所の寮がありました。
私はマスクをし直接硫黄を吸い込まないようにして写真を撮りながら歩いていたのですが、雲仙では外国人観光客(アジア系)も多く、卵を茹でたりして楽しんでる人、観光スポットを満喫してる人ばかり。
自宅から家族分のマスクも用意して行く私とは認識に食い違いがあるのかもしれません。
日本最大の地熱発電所である大分の九州電力 八丁原地熱発電所 の八丁原発電所展示館に行きました。まずガイドの女性による説明。超立派なカラーパンフレットもいただきました。
穴を2000メートル掘りすすめて地下から熱水を取り出すのですが、そのパイプが二酸化ケイ素やカルシウムなどで詰まってしまうので定期的に2年に一回ジェット洗浄や交換作業をしているそうです。(画像奥がそのパイプの断面、手前は掘削機の先端部分)「温泉と同じ湯アカ」?という説明でした。このような穴が28本開けられて熱水が吸い出され、18本で戻しているということでした。
説明は「半永久的」な自然エネルギーというところを強調。パイプ交換してるんですけどね。そもそもパイプや、その他のタービン、発電機などの設備には寿命がありますから。
地下から取り出した熱水にヒ素や水銀などの有毒物質を含むというような話は一切なく、「硫黄の匂いがしますが温泉と同じです」とここでも強調。
体育館のようなタービン建屋に入りました。入ってすぐ巨大なタービンの音に恐怖を感じました。本当は直ぐにでも逃げ出したいくらいの轟音で正直不快でした。
この建屋には担架が設置されていました。硫化水素の度合いで倒れる人がいることが想定されているということだと思います。なのに「温泉と同じ」??
タービンと発電機は原発メーカーの三菱重工、三菱電機です。
原発なくしたいと思い込んで地熱発電を応援しても、結局、原発メーカーが儲かる仕組み。
展示館ロビーで見つけた色紙です。幾人かのタレントや文化人らの色紙に混じってあったのが、勝間和代氏の色紙。2014年に来てるようでした。
「八丁原地熱発電所の”自然の力”に感動しました」
ということは地熱発電は賛成という立場のようですね。原発も、地熱もお金がもうかることは彼女は推進なのでしょう。
さらに御嶽山噴火で勝間和代氏に非難の声!「大規模噴火は数千年に一度。警戒は無駄」 を見ると、どうやら勝間氏は火山観測の予算を削っていますね。
「・・御嶽山でさえ観測対象から外された」と書いてあります。↓
火山観測の予算を削って、「地熱発電所の自然の力」に感動する勝間氏。
火山の力を知るというのは、自然の恐ろしさを知るということだと思うのです。
核の平和利用=原発、火山の平和利用=地熱発電、人間の力でコントロールできないという点では似てると思います。
それなのに、自然の力⇒電気⇒売電⇒金 という考え方の人が大勢いる。脱原発を目指す人の中にも大勢いる現実。
ガイドの女性の説明では、地熱発電のデメリットは「大きな発電ができない」ということだけでした。
メリットしか伝えないというパターンはここにもありました。
私はバイナリーも含めてあのような地熱発電所を作って欲しくないです。既存の温泉という活用の仕方でもう十分です。
元横浜国立大学非常勤講師の小波盛佳氏の指摘をご覧下さい↓
http://www.geocities.jp/morikonamia/tinetu.html より全文転載
地熱発電の環境への影響 小波盛佳 2002年08月25日今,日本の各地で地熱発電が進められています。 化石エネルギー資源の枯渇が迫っている今,地熱発電にかかる期待には大きいものがあります。 日本の場合,温泉に近い地点が候補に挙がり,発電所が建設されています。 しかし,その中で古来の温泉地の将来を左右し,環境破壊につながりかねない事態が起きているようです。 ここでは環境と温泉資源に及ぼす地熱発電の影響という観点から考えてみます。
■ 目次1.地熱発電とは
2.地熱発電の方法
3.地熱用水と温泉用水
4.地熱用熱水の汲み上げ量
5.地熱水の温泉利用の可否
6.地熱発電が環境に与える影響
7.不用水を地下に還元する(戻す)ということ
8.景観の問題
9.発電事業開始前の影響評価
10.影響評価に必要な時間
11.地熱発電の影響が発現した実例
12.影響に対する補償
13.新しい地熱発電方式の早期開発への期待
14.具体的な例としての霧島地方地熱開発における課題
15.まとめ
地下の熱を利用する発電である。 現在実用化されている方法は,地下の坑井を通じて,噴出する天然蒸気から熱水を取り除き, 蒸気の圧力でタービンを回して発電するものである。 地熱は石油・石炭などの化石エネルギーと異なる自然エネルギー資源で、 その特長として純国産であること、地球温暖化のもととなる炭酸ガスの排出量が極めて少ないことが挙げられる。
反面,課題として,熱水には一般に砒素をはじめとする有毒物質を含むこと,地下水の流れに影響を与えること, 中でも周辺の温泉の枯渇を招くことがあり、また,景観を損ねることなどが指摘されている。
地熱発電の一般的なフローは次のとおりである。
抗井→(蒸気含有熱水の汲み上げ)→セパレータ(熱水と蒸気の分離:熱水は地下に還元) →(蒸気のみ移送)→タービン(発電)→(排気の移送)→冷却(河川水による)→放出
抗井すなわち熱水を汲み上げるための井戸の深さは一般に1000mから3000m程度である。 生産井(発電に用いる抗井)には、先端部で約200mmの口径のものが用いられている。
地熱発電では,1000−3000mの深さにある熱水を汲み上げる。 この深さの水は,地表水が浸透すると考えれば,一般に数十年またはそれ以上の時間を経る必要があると考えられる。 温泉でも1000mを超えるものも希にあるが,一般にはこれよりはるかに浅く,0mすなわち地表から自然湧出しているものも数多い。
現在行われている地熱発電では,高圧下の地下から噴出した概ね200゜C以上の水蒸気が,発電用タービン駆動に用いられている。 この温度は高温であるほどエネルギーとして利用しやすい。
一方,含有する成分には問題が多い。 一般に深い地層から得られる熱水には,一般の温泉に用いられる水と異なり,毒性を持つ砒素,水銀が含まれている場合が多い。 また主に水蒸気中に硫化水素などが含まれていることも多く,これは大気に放出されやすいものである。
温泉1箇所あたりの平均的な汲み上げ量は100L/min程度である。 東京都の下町では,浴場用の地下水汲み上げ量が1箇所あたり約35L/min以下に制限されているところもある(※1)。
一方,地熱発電では,10万kWあたり,60,000L/min程度の熱水が汲み上げられている(※2)。 現在,日本の火力発電による発電量約1億kWの0.5%にあたる50万kW超が地熱発電でまかなわれているが, 温泉の数にして3,000箇所の温泉に相当する地下水が移動させられていることになる。 1973年には当時の通産省がサンシャイン地熱発電計画として,1997年までに地熱発電を700万kWにするという目標を掲げ頓挫しているが, これは40,000箇所程度の温泉の汲み上げ量に相当するものと概算される。 地熱発電のために汲み上げられ,不用水として他の地層に再注入される水の量が如何に膨大であるかが分かる。
※2001年現在。第91回東京都自然環境保全審議会議事速記録2001.09.06より。
※例えば,雫石町の葛根田地熱発電所では1,2号機合わせた8万キロワットの発電出力に対して,熱水の汲み上げが1時間約3,000tonである(安代町広報HP2002.08より)。 大分県大岳地熱発電所では1.1万kWで約5,8000L/minを還元している。
前述のように,地熱発電に利用されるほどの高深度の地下から得られる熱水は,通常の場合毒性のある物質を含んでいる。 そのため,発電に用いられていくらか冷却された後の不用水をそのまま温泉として利用することは,ほとんど不可能である。 筆者のもとには,かつて少量の原油成分を含む温水を処理し,温泉として利用できないかという検討依頼があったが, 結果として無害化処理にコストが掛かりすぎることが想定されるために断念した。 人の肌に触れ,飲用にも供される温泉用水の水質には,今後,より厳しい規制が加えられていくと考えられる。
不用水を温泉に直接利用するための研究開発も試みられているが,万一の毒性発現の危険防止対策を含む採算性を考えると, 多難な障害が予想される。
地熱発電が環境に及ぼす主な影響として,次の諸点が考えられる。
1)温泉の枯渇: 汲み上げによって温泉資源が減少または枯渇する
2)崖崩れ: 汲み上げまたは不用水の還元(地中への戻し)によって変化する
3)地震: 汲み上げまたは不用水の還元に伴って地震が誘発される
4)地下水の汚染: 不用水の還元によって毒性の物質が他の地下水を汚染する
5)大気汚染: 毒性のある気化性物質によって大気が汚染される
6)表層土の汚染: 毒性のある気化性物質,固形物質によって大地が汚染される
7)景観の悪化: 人工構築物および白煙によって景観が損ねられる
これらを引き起こす要因は,主として, (1)熱水の汲み上げ,(2)不用水の還元,(3)熱水,蒸気に含まれる毒性,(4)施設構築自体の4つである。
通常の場合,地熱発電に利用された後の不用水の大半は,毒性のある物質を分離できないために,熱交換後に地下に還元される。 これは同じ場所に戻されるわけではなく,汲み上げ箇所より高い地層に戻されるのが一般的である。 そこで,その戻された部分で影響を生じうる。
毒性のある温水が,前より地表に近い所に貯められるというだけでも,問題を生じる危険性がある。 さらに,大量の不用熱水を岩の割れ目に注入することから,地層の構造の変化を引き起こす危険性があり, 最悪の場合は,毒性のある地下水の噴出・流出および地層の崩壊とそれに伴う崖崩れ・地震が生じることも考慮しなければならない。 事業を行う前に,戻す場合の影響について,地下水の汚染を含めてその問題点と解決策に関する研究を行い, その因果関係を明確にしていくべきである。
地熱発電の弊害,特に環境に与える影響が一般に知られていなかった時期には, 地熱発電所はむしろクリーンエネルギーを生み出す新しい観光の目玉として宣伝されたほどであった。 しかし,世間にその弊害が広く知られるようになって状況は変化した。 構造物自体の違和感,冷却塔からの排気による白煙などが,山中に建てられた工場のイメージとして捉えられ, 自然の景観を損ねるものとして嫌悪されるようになってきている。
■ 9.発電事業開始前の影響評価 地熱発電が及ぼす影響のうち,汲み上げる熱水及び気体中に含まれる物質による汚染については,比較的明確にしやすい。 近年になって,それらに対する対応は,ある程度考慮されてきたと言えよう。 しかし,地下水の採取および,還元に関する評価が進んでいるとは考えられない。 基本的には採取地点及び還元地点の水脈と流量,熱水だまり(リザーバ)の規模と温度・圧力などが解明されて始めて, その及ぼす影響が予測可能となるものである。 しかし,地下の水脈やリザーバは複雑で,その流れをつきとめることは,現在の技術ではほとんど不可能である。
地熱発電が環境に与える影響については,総合的にみて,まだあまり明確にされているとは言えない。 その中で,,各地における地熱発電の可能性の調査と,その調査期間内の環境への影響を観察調査することにとどまっており, 発電期間における環境アセスメント(影響評価)は,事業者に委ねる姿勢をとっている。 国の意向として開発を推進し,お墨付きを与えておきながら,あとは,力関係でどうぞということは無責任に過ぎるように思われる。
たとえば,水中のトリチウム(質量数3の水素原子同位体)で地下水が地表から浸透を始めた時からの時間が測定でき, 水の土壌中での浸透速度の研究などが進められているが,そういった方法を駆使して,水脈の研究などが行われていくべきであろう。 国が地熱発電を推進しようとするなら,影響評価に対する研究について,さらに熱心である必要がある。
地下水脈の解明が進んでいない現状では,影響評価において操業開始後の経過観察が重要な役割を担っている。 これは結果でしか判断できない弱点を持っている。
しかも,この経過観察自体が,実際には容易でない。 温泉などへの影響は,その水脈が偶然至近距離にある場合を除いて,地熱発電を開始した後,相当の時間を経て表れるのが一般的である。 汲み上げる深度やその周辺の地下水の流れについて,具体的に知られていることはほとんどない。 すなわち,経過観察を行うに当たっても,その問題の解決に寄与しうる地層および地下水の流れに関する研究は極めて少ないようである。
トリチウムを使って土壌中での浸透速度を測定した北海道と熊本の例では,それぞれ1.4m/y,2.3m/yという報告がある。 実際には地下水の流れなどがあり,単純ではないが,地下1000mまで水が浸透して到達するには,単純計算では数百年かかることになる。 化石燃料の生成期間とは比べものにならないまでも,非常に長い年月を掛けて水脈や熱水だまりが形作られてきていることになる。 その水を移動させる現行の地熱発電方式が及ぼす影響には計り知れないものがある。
地熱発電の実施においては,他の諸工業における公害問題と同様に,影響についての配慮を加えないまま事業化が先行した。 地熱発電が開始された初期の段階では,不用水をそのまま河川に放流した。 そのために近隣や下流域に砒素等による汚染をもたらし,魚が死滅するなどの被害をもたらした。 また,大気中に放出された水蒸気に伴って硫化水素が放散し,木々が枯れるという状況を作った。 途上国の中には,その後も状況が変わらず,今も被害に苦しんでいるところが多い。
不用水による被害対策として,今では,不用水を地下に還元する(戻す)ことが行われている。 これで見かけ上,河川の汚染は減少することになった。 しかし,その不用水の還元の影響は,因果関係をつかみにくいため,問題の発現を後送りし,不明確にしてしまった。
そういった状況の中で,具体的には地熱発電が行われているほとんどの地区において, 温泉が枯れるなどのなんらかの影響が表れているとされる。 その具体例を,精力的に調査を続けてきた中沢跳三氏の論文の一部より拾い上げる。
1)秋田県大沼地熱発電所付近の温泉: 上トロコ温泉枯渇,他の温泉でも湧出量減少,泉温低下
2)大分県久重町大岳地熱発電所,八丁原発電所: 25箇所の温泉・地獄すべての自然湧出の源泉に湧出量低下,泉温低下(うち,枯渇5)
3)秋田県澄川地熱発電所: 周辺で大規模な土砂崩壊がおきて澄川温泉と赤川温泉が壊滅
外国でも次のような例が報告されている。
1)イタリアのラルデレロ地熱発電所: 周辺の温泉源のみならず,周辺の森林が壊滅
2)フィリピンのフィイ地熱発電所: 水蒸気爆発で周辺の温泉が壊滅
3)米国ネバダ州の地熱発電所: 調査井のボーリングで世界的に有名な間欠泉が噴湯停止
これらはほんの一例である。
これまでの例では,発電の事業者が,地熱発電との因果関係が明確とされる枯渇した温泉に対して, 熱交換によって得られた温熱水を供給するなどの補償を行っている。 これは最小限の補償として当然視されている。 しかし,これは、その温泉を含む地域全体が被る被害を考えれば,全く不十分な補償である。 自然の温泉を破壊するという行為がその程度のことで償われるはずはない。
温泉の枯渇はその温泉経営だけの問題ではない。 温泉利用者には自然の温泉を求める傾向が高まってきている。 国立公園であればなおさら,そうでなくとも自然の景観を損ねた上に,人工温泉のイメージを持たれた場合, その温泉地の価値は格段に低下する。 温泉の定義の緩和によって,再加熱・循環などの浴場が増えているために,それに関する表示を義務づけようという機運が高まりつつあるが, 自然のものでない温泉として明確にされてしまうと,利用客の心は決定的に離れてしまう。
地熱発電所の建設によって,短期的には経済が潤うという目先の利得があろうが,百年の計としてみれば,大きな疑問が残る。 結果として,地熱発電が,その地方の経済全体に長期にわたる壊滅的な打撃を与えることは十分考えられる。
現在実用化されている方式の地熱発電では,地下の熱水を利用しているが,これはその地点毎に水量が限られていることから, 部分的に枯渇していく。地熱発電を続けていく限り,次々に新しい抗井を掘削し続けていくのが避けられない。 地熱発電には,温泉への影響と有毒物質の大気及び地表への拡散の問題の他に,発電システムへのスケール付着,抗井の寿命などの問題がある。
そこで,これらを解決する方法として,マグマで加熱された高温の岩に水の流れる道を造り, 送り込んだ水を加熱して蒸気を取り出す高温岩体発電が研究開発されている。 この方法は,地下の熱水を汲み上げることがないために,自然への影響が極めて小さいものとして期待されている。 また,この方式で利用できるエネルギー量は,熱水を汲み上げる現状の方式と異なり,膨大であるとされている。
日本最初の国立公園区域内にある霧島地方では,大霧発電所で10,000kWと小規模(許可出力30,000kW)ながら1996年3月より地熱発電が行われている。 この地点より4km離れたえびの高原では5年ほど前から極端に噴気が減少し,自然湧出の温泉が枯渇していると報告されている。 現在,さらに白水越地域,霧島烏帽子岳地域,えびの白鳥地域で新しい地熱調査活動が行われている。 ここでは,調査開始時に,地元に対して抗底における口径101mmの調査井だけの掘削であると説明しておきながら, 5本中4本が口径216mmの生産井に相当する多数の抗井を設けて地熱調査活動を行っていることが発覚した。 発電開始のための交渉の布石と考えられる地元への説明の中で,その既成事実を述べて,地熱発電の実施を説得するという対応がなされ, 地元があきれている。
地元の温泉組合は,当初から発電所建設に反対の意向を示していたが,調査だけということで認めてきた経緯がある。 ここにきて,本格的な発電所の建設についての交渉では,影響調査に対する認識のずれが目立っている。 温泉組合は,地域の将来の観光資源の滅失を含めた議論を巻き起こして,反対運動に取り組んでおり, これは全国レベルの環境問題として採り上げられようとしている。
化石燃料などに頼らないクリーンなエネルギーが求められる今,地熱発電は一つの選択肢として,有望視されてきている。 それを追求する技術開発努力に対しては敬意を表する。 しかし,それが如何に緊急の課題であろうと,重点目標であろうと,その調査・開発と事業化に拙速が許されるものではない。 前述のように,温泉枯渇や泉量の減少だけをとっても,その影響の例は枚挙にいとまがない。 これだけの温泉枯渇が知られていながら,これまで安易に地熱発電の開発が進められてきたことには驚きを感じる。
環境を守るための新エネルギーが反対に環境を破壊するのであれば,これは全く悲しい結末につながる。 これまでの地熱発電の実施においては,あまりにも環境評価に対して不熱心であったと言わなければならない。 そうならないためには,地熱発電の開発者および事業者は、地方行政組織トップとの話し合いを中心とすべきではなく, 市井の声という熱交換器に通し,過熱した事業化熱を一度さまして,次世代のために考え直す時間を持つべきであろう。
今,研究開発及びその課題の事業化に対する日本の産官学の取り組みには,焦りにも似たものが漂っているように感じる。 目先の経済効果を生みだすことを優先させるあまり,その周辺に対する配慮に欠けるきらいがある。 経済効果を生む研究も大事であるが,それが及ぼす影響を正当に評価する研究にも力を入れていくべきであろう。 その両輪が回ってこそ,後生に悔いを残さない産業の構築,なかでも代替エネルギー政策と諸事業が発展していくはずである。
(こなみ もりよし:技術士,工学博士,元横浜国立大学非常勤講師)